3つの事例で考える生成AIと著作権

4部69期 小林 遠矢

第1 はじめに

 昨今、生成AIを用いて文章、イメージ、音声、動画など様々なコンテンツを作りだせるようになり、可能性が広がる一方、著作権との関係を心配する声も聴かれるところである。本記事では、令和6年3月に文化庁の審議会でとりまとめられたAIと著作権法との関係の議論(注1)(以下「文化庁のとりまとめ」という。)を基に、架空の事例を用いて検討する。

第2 事例

1 3つの段階での問題

 生成AIを用いる場合において、著作権法の関係では、大きく分けて以下の3つの段階での問題が考えられる。以下、それぞれの段階ごとに考える。
Ⅰ AI開発・学習段階での問題
Ⅱ 生成・利用段階での問題 
Ⅲ AI生成物に著作物性が認められるかという問題

2 (Ⅰ)AI開発・学習段階での問題

事例:既存の学習済みモデルの生成AIに、追加学習の方法により、特定の作家の作品を複数学習させ、その作家の絵柄を再現できるAIモデル(以下「本件AIモデル」という。)を作りたいと思っている。この行為に問題はないか。
(1) AIの学習行為と権利制限規定

 まず前提として、AIへの学習行為自体は、多くのケースでは、「情報解析・・・の用に供する場合」(著作権法(以下「法」という。)第30条の4第2号)として「思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」(同条柱書)に該当するとして、権利制限の対象となり、著作権者の許諾なく複製等を行っても、著作権侵害が成立しないものと考えられている(「非享受目的」が認められる。)。同条文は、平成30年の法改正において、AIをはじめとする技術革新などの社会の変化に対応できる柔軟な権利制限規定を設ける必要性が議論され、新たに創設された権利制限規定である。
 同条文については、「ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。(注2)」と解されており、非享受目的と享受目的が併存する場合については、権利制限の対象とならず、著作権を侵害し得ると捉えられている。
 本件のケースのように、既存の学習済みモデルに追加学習を行い、追加学習用のモデルを作成するような場合について、文化庁のとりまとめにおいては、「意図的(注3)に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合」には、情報解析に「享受目的」が併存すると評価されると説明されている。すなわち。かかる場合には、作品を学習させる行為自体が著作権(複製権等)侵害となり得る(本件は、下図の「追加的な学習」部分の問題)。
0718-1
(文化庁:令和6年3月15日「AIと著作権に関する考え方について」、18頁より引用。)

(2) 本ケースの検討

 本件のケースで考えると、例えば、本件AIモデルによって生成されるイラストの大部分が、学習させた特定の作家の作品と類似性を有するものである場合、元の学習行為自体が、意図的に創作的表現を出力させるために行っていたと捉えられるため、「享受目的」が併存しているとして、法30条の4が適用されず、著作権侵害が認められる可能性が高い。
 一方、例えば、本件AIモデルが、学習させた元作品とは大きくは類似しないように技術的な工夫がされており、出力された生成物が、当該作家の「作風」や「絵柄」といった抽象的な部分で類似するイラストに止まる場合はまた異なる。一般に、作家の「作風」自体はアイデアの領域にとどまるとされており、作風が共通するからといって著作権侵害となるわけではない。したがって、このような場合であれば、元の作品の学習行為についても、意図的に創作的表現を出力させることを目的とした場合とは言い切れず、「享受」の目的があったとは直ちに判断されないはずである(注4)
 上記のいずれの場合であっても、おそらく実際には、開発行為に伴うAIに対する学習行為自体は、直ちに表に出てくる事象ではなく、その後生成された生成物の結果からみて、遡って学習行為が適正であったのか否かが判断されることになるだろう。当初の開発者の「意図」としては、既存の著作物の創作的表現を出力させるつもりがなかったとしても、結果として、著作権を侵害するような生成物が高頻度で生成されるような場合は、遡って学習行為(開発行為)が違法であると評価され得る。開発者にとっては注意が必要な点といえるだろう。

3 (Ⅱ)生成・利用段階での問題

事例:生成AIに指示をしてイラストを作成し、SNSにアップしていたところ、知らない人から連絡があり、「そのイラストは、自分がかつて描いて公開していたものと極めて似ており、私の著作権を侵害するので、削除及び使用料相当額の賠償を求める。」とのことであった。私はその人のイラストを見た記憶はないが、削除や賠償に応じなければならないのだろうか。
(1) 著作権侵害の要件

 一般に、著作権侵害が成立するには、①類似性、②依拠性の要件を充たすことが必要である。
 まずは、①類似性を判断するために、両イラストを見比べて、その創作的な表現部分まで共通しているかどうかを見極めることになる。前述したように、単に「作風」といったレベルが似ているだけであれば、アイデア部分が共通しているだけであり、類似性は否定され、著作権侵害は認められない。

(2) 依拠性について

 では、本ケースにおいては、両イラストの創作的表現部分まで共通しており、①類似性があると仮定した場合、次の要件である、②依拠性があるといえるのだろうか。
 依拠性は、既存の著作物に依拠して作成されたことを指し、その判断は、従前、既存の著作物を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。
 AI生成物における依拠性について、文化庁のとりまとめでは
① AI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
② AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれる場合
③ AI 利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI 学習用データに当該著作物が含まれない場合
 上記3つの場合に分類して考え方が示されている(注5)
 ①については、例えばimage to imageで既存著作物を直接入力し、AIに生成を指示している場合には、既存著作物を認識していた(=依拠した)ことが認められる。また、そうでなくても、既存著作物へのアクセス可能性があれば、既存著作物の認識があったと推認されるという従来の考え方は、生成AIを利用した場合についても妥当するとされている。
 立証の観点では、被疑侵害者が、どのように生成を指示したのか特定する必要が生じる可能性があるが、この情報を権利者の側でどのように入手するのか課題となりそうだ。
 ②については、「当該生成AI の開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AI を利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI 利用者による著作権侵害になりうると考えられる。」と説明されている。当該AIの学習データに入っていれば、アクセスがあった=依拠があったとする考えのようである。
 この考えに従うと、権利侵害を主張する側(依拠性の存在を立証する側)としては、AIの学習データに既存著作物が含まれていたのか否かを把握する必要があるが、その情報をどのように入手するのか課題となりそうである。AIの学習データの内容を特定することが技術的に可能なのか、可能だとして開発者において開示してくれるのかといった問題が生じ、立証に一定のハードルが生じる可能性もある。
 ③については、学習データにも含まれていないのであれば、結果として生成物が類似していても、それは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められないと説明されている。

(3) 本ケースの検討

 本ケースでは、例えば、相手と直接の面識はないが、SNSをフォローしており、気づいてはいなかったが、そのSNSに既存著作物が掲載されていた場合などには、既存著作物へのアクセス可能性があったとして、依拠性が認められる可能性が高いだろう。
 また、そのような事情がなくても、生成AIの学習データに既存著作物が含まれていた場合は、出力された生成物は、既存著作物に依拠して作成されたものと解される。こうした場合、形式的には類似性や依拠性を満たすため、差し止め請求については応じざるを得ない可能性がある。もっとも、この場合は、AIの利用者からしたら、学習データの内容までは把握していないともいえるため、損害賠償請求を受けるような場面では、自身に故意や過失が認められないのではないかといった反論が考えられるところである。
 以上のように、利用者が、生成時に意図していなくとも、他人の著作権を侵害してしまうおそれもあるため、生成AIを利用する際にも、一定の注意が必要といえる。

4 (Ⅲ)AI生成物に著作物性が認められるかという問題

事例:自分が生成AIに何度も細かな指示をして作らせた、山を鮮やかに描いたイラストと、同じイラストを他人が販売しているところを見つけた。同人に対し著作権侵害を主張できないか。
(1) AI生成物と著作物性

 まず、著作権侵害を主張するためには、イラストに著作物性が認められ、その著作権者が利用者自身であることを示さなければならない。
 上記のケースでは、生成AIによる生成物に、著作物性が生じるのかという問題が発生する。
 まず前提として、AIそのものは法的な人格を有しないため、著作者(著作物を創作する者)になり得ない。したがってAIによる著作物というものは生まれない。
 では、AIにイラストの生成を指示した人間が、著作者(及び著作権者)として認められるといえるのだろうか。
 一般に、著作物については「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法第2条第1項第1号)と定義されていることから、AIを用いる場合でも、生成を指示した具体的な行為が、この定義に該当するかものかどうかで判断されることとなる。すなわち、利用者の指示が、表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、著作物性は認められないが、その指示に「創作的寄与」がある場合には、著作物性が認められる可能性がある。
 この点について文化庁のとりまとめにおいては、「単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。(注6)」として
①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
②生成の試行回数
③複数の生成物からの選択
 といった要素から、創作的寄与があったか否かを判断するといった考えが示されている。

(2) 本ケースの検討

 例えば利用者の「綺麗な山を描いて」といった抽象的な指示1回のみで生成されたイラストでは、指示を行った者による具体的な創作的寄与は認められず、生成物の著作物性も否定されるだろう。
 AI利用者が、生成物への著作物性を主張するのであれば、生成時に抽象的な指示をすることでは足りず、上記①~③の要素を意識し、イラストに現れる細かな表現部分にも言及した上で、生成物を作成する必要がありそうである。
 実際に権利を主張する上では、AIに指示した内容や過程を事細かに記録して、証拠化し、自分の創作的寄与に基づきより作られた生成物であるということを、厚く主張する必要が出てくるだろう。
 本ケースでも具体的に出力されたイラストの創作的な表現部分に、利用者がどの程度指示を行っていたのかどうかが重要となる。ある程度細かに指示をして、何度もトライして生成されたイラストであれば、少なくともその指示に対応する創作的表現については、著作権の存在を主張する余地があるといえるだろう。

以上



(注1) 文化審議会著作権分科会法制度小委員会作成令和6年3月15日付「AI と著作権に関する考え方について」94022801_01.pdf (bunka.go.jp)
(注2) 前掲文化庁のとりまとめ 19,20頁
(注3) 明確な意図までなくとも「具体的事案に応じて、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合」については享受目的が併存すると説明されている(20頁)。
(注4) もっとも、このような場合でも、特定のクリエイターの需要が、AI生成物によって代替されてしまうことは30条の4 柱書の但書における「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するのではないかといいた議論や、著作権侵害に該当せずともクリエイターの営業上の利益等を侵害し不法行為責任を負うのではないかといった議論がある。
(注5) 文化庁のとりまとめ33~35頁
(注6) 文化庁のとりまとめ39,40頁