渉外離婚について
3部74期 黒岩 瞳
第1 はじめに
近年、インターネットの普及や交通網、SNSの発展により、留学や異文化交流が活発になり、出会いの手段も多様化しています。特に、マッチングアプリの普及により、異国籍の人々との出会いも容易になり、夫婦の一方が外国籍であるケースが増えています。実際、厚生労働省の人口動態調査によると、1980年代までは国際結婚の件数は年間1万件以下でしたが、1990年代以降は年間2万件以上となる年がほとんどです。
私が相談を受けた事例は、相談者は日本人女性で、夫がオーストラリア人でした。国際結婚の際に生じる問題の中で、離婚に関する法的手続きが特に煩雑になりやすいことはよくあります。実際、離婚には協議離婚、調停、裁判を経て決着することが多いですが、国際結婚の場合、国境を越えるため、さらなる複雑さが加わります。ここでは、私が受けた実際の相談を基に、国際離婚の手続きとその難しさについて説明します。
第2 国際裁判管轄について
実際に相談を受けた際、最初に直面した問題は「裁判管轄」でした。国際離婚を進めるにあたって、どこの国の裁判所が管轄を持つのかを確認する必要があります。日本とオーストラリアのように、異なる国籍を持つ夫婦が関わる場合、その国際裁判管轄を決定するのは非常に重要です。
日本における国際裁判管轄は、人事訴訟法第3条の2に基づき、以下のようなケースで日本の裁判所に管轄権が認められます:
① 被告(夫)の住所が日本にある場合
② 夫婦の最後の共通の住所が日本にあった場合
③ 被告(夫)が行方不明で、他国での判決が日本で効力を持たない場合
このケースでは、相談者が日本に住んでおり、夫との共通の住所も日本にあったため、日本の裁判所に管轄権があると認定されました。しかし、もし夫がオーストラリアに帰国したり、別の国に住んでいたりする場合には、その国の裁判所が管轄を持つ可能性もあるため、管轄地を再度確認する必要がありました。
第3 準拠法について
次に問題となったのが、どの国の法律が適用されるか、いわゆる「準拠法」の問題です。日本に裁判管轄が認められた場合、手続きは法廷地法(日本法)が適用されますが、離婚の成立・不成立に関しては実体法に基づいて判断しなければなりません。このため、離婚を成立させるためにどの国の法律が適用されるのかが問題となります。
日本の法的枠組みでは、準拠法については通則法第27条が規定しており、「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人である場合、離婚は日本法による」と定められています。この場合、夫がオーストラリア人であっても、相談者が日本に住んでいるため、日本法が適用されることになります。
準拠法を決定する際には、夫婦の常居所地や最密接関係地を調べる必要があります。実際に相談を受けたケースでは、相談者が日本に住んでいたため、日本法を準拠法として離婚手続きが進められることになりました。しかし、夫がオーストラリアに住んでいた場合、オーストラリア法が準拠法となる可能性もあり、その場合の法律手続きについても確認が必要でした。
第4 その他の問題について
国際離婚では、離婚そのものだけでなく、財産分与や親権、慰謝料の問題も争点となることがあります。これらの問題についても、どの国の法律が適用されるのか、裁判管轄がどこにあるのかを慎重に検討しなければなりません。特に親権に関しては、夫婦の出身国や居住国で異なる基準が適用されることがあるため、慎重な判断が求められます。
また、オーストラリアの法律が適用される場合、私はオーストラリア法に精通していないため、現地の法律専門家との連携が必要となる可能性もありました。こうした場合、外国の法律を理解し、適切に対応するために、現地の専門家と協力することが非常に重要です。
第5 まとめ
このように、国際離婚に関する手続きは、日本人同士の離婚よりも法的な検討事項が多く、手続きが煩雑になることがあります。私が受けた相談においても、夫婦が異なる国籍を持つことから、法律や手続きに関して多くの困難が生じましたが、最終的には、相談者の心情に寄り添い、最良の解決策を模索することができました。
国際離婚では、離婚そのものだけでなく、両者が抱える不安やストレスが大きいため、その解消に向けてサポートすることが重要です。今後とも、依頼者一人ひとりの立場や心情に寄り添い、より良い未来を築く手助けをしていきたいと考えています。