東弁三会派共催国際人権フォーラム「就業外国人の人権擁護と日本の未来」レポート

8部62期 山本 真由美

令和5年11月29日(水)17時30分から20時5分まで、弁護士会館508会議室及びZoomにて、東弁三会派共催国際人権フォーラム「就業外国人の人権擁護と日本の未来」が開催されました。
第1部は基調講演で、国際連合自由権規約委員会元副委員長であり、現在は早稲田大学大学院法務研究科研究科長の古谷修一様と、株式会社グローバルトラストネットワークス代表取締役社長の後藤裕幸様にご講演いただきました。
まず、古谷様のご講演「国際社会から見た日本の人権の現状」においては、日本が締結した国連憲章・人権条約は、国際的に遵守する義務があるだけでなく、憲法98条2項に基づき、国内的にも法律に優位する規範として履行する法的義務があるにもかかわらず、いまだに日本の考えは、マクリーン事件最高裁判決のとおり、外国人に対する基本的人権の保障は外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないとされ、外国人に対する人権保障について法的義務という意識まで至っていないとのご指摘がありました。
そして、国連での経験もお話ししてくださり、人権条約に基づく履行確保のため国家報告の審査が8年ごとにあるが、日本は外国人に対する人権も含めて人権保障の制度が十分でなく、国連からは、政府から独立した国内人権機関を作り、さらに包括的差別禁止法も制定すべきだと指摘されているとの由でした。外国人就労者の人権を保護するためには「外国人一般に対する人権保障」及び「ビジネスと人権」という両方の観点からの保障が必要というお話に、当たり前のことができていない日本の実情に気付くことができました。
次に、後藤様のご講演「日本の国際化に向けた外国人支援ネットワークの構築」においては、外国人の不動産賃貸借の連帯保証事業をはじめとする定着支援サービスを行っているという後藤様の会社の紹介から始まり、今年、200万人を超える外国人就労者がいると報告されているところ、今でも「外国人不可」の賃貸物件があったり、外国人はすぐに国に帰ってしまって定着しない等の誤解があったりすることによって、日本で働きたい外国人就労者が疎外されているという実情が報告されました。
そして、日本においては2040年までに全ての職種が更なる人手不足に陥ると予想されるが、地球規模で見ると人口爆発が起きており、日本で働きたい外国人を受け入れ、定着してもらうことが企業だけではなく日本の少子高齢化を救うことになるとのお話があり、日本企業がダイバーシティに本格的に取り組む必要性を強く感じました。
古谷先生2
後藤様1
第2部は、「日本の国際化に向けた弁護士実務」と題し、ともに法友会会員である弁護士法人Global HR Strategy代表の杉田昌平弁護士と、銀座プライム法律事務所の関聡介弁護士からご講義いただきました。
杉田弁護士による「入管法改正に伴う在留資格手続きの法務」の講義においては、現在の業務は外国人雇用の仕事に特化していると自己紹介され、非常に多数の企業が外国人雇用につき弁護士からの助言を求めているかをご説明されました。
そして、働く人の10人に一人が外国人にならないと日本の経済成長はないが、現状ではほとんどの会社が外国人材受け入れの法的手続きを完全に理解しているとは言い難く、知らないうちに違反していることがあるとご指摘されました。そのうえで、国際労働移動における法の支配を促進させることが、いかに重要性が高いかを企業側の視点に立ってご講義くださいました。
関弁護士の「外国人事件実務の勘所」の講義においては、そもそも外国人の定義が何かという根本的なところから始まり、30年以上日本人として生活してきても親子関係不存在確認訴訟によって日本人の父と親子関係が否定されると、生まれた時から外国人という扱いになってオーバーステイ扱いになるという、実務に携わってきたからこそ知っている問題点を指摘されました。
そして、外国人が少ない地域に居住すると支援が受けづらい、これまで日本にあまり来ていなかった国から来る外国人が増えると通訳確保が難しいという生活にかかわる問題をご指摘されたうえで、在留資格によって仕事ができるか否か等の格差があるということを、就労者側の立場からご講義くださったうえで、外国人へのリーガルサービス拡張の重要性を説かれ、外国人事件は特殊性もあるが、特別な弁護士しか対応できないものではなく、準拠法と管轄、そして在留制度に気をつけて、一般の法律相談と同じように対応すべきであるというご助言をいただきました。
第3部はパネルディスカッションが行われ、第1部・第2部にも登壇された古谷修一様、後藤裕幸様、杉田昌平弁護士、関聡介弁護士に加え、現在日本で働いているチパ様がパネリストとして参加し、コーディネーターを廣瀬健一郎弁護士(法友会憲法・国際人権問題検討部会 部会長)が務めました。
チパ様及び後藤様は、労働に必要な能力より日本語の能力が就労の上で重視されてしまうことの問題点を指摘され、さらに後藤様は、外国人就労者に長く住んでもらうには医療通訳を増やす必要があることや、義務教育が適用されない外国人に対し、すでに教育を広めている自治体の取り組みを紹介されました。
また、杉田弁護士は外国人を雇うにあたって日本人と同じ扱いでよいと思い込み、外国人雇用特有の規制を知らずに法令違反をしている企業が多いことや、このような規制を知らずに助言すると弁護士も懲戒処分となる可能性を指摘され、そのうえで、在留資格の更新は企業が行うために、外国人は企業より立場が弱く、それを利用して「残業しないなら在留資格は更新しない」と脅すことも発生しているという実情を報告されました。
古谷様も、移民が多い国でのハラスメント問題を挙げられ、逆に、移民が多いからこそ取り組みが先進的であるオランダでは、オランダ語を無償で学べるサービスを提供しており、日本も外国人就労者が増えてから手を打つのではなく、公務員から始まって民間、特に中小企業へと、今から2040年の状況に対応できるセーフティーネットやサービスを、弁護士が中心となって作っていくべきだと提言されました。
関弁護士は、外国人相談の内容も非常に様々であり、長く住む人ほど日本人と同じような相談が増えていると紹介され、チパ様が外国人のみを対象とした返済不要の奨学金を利用するため、日本とザンビアの二重国籍を諦めザンビア国籍を選択せざるをえなかったという実体験に対して、二重国籍などの問題は弁護士による法律改正の提言が求められると述べられました。
後藤様は日本の独自の就職活動制度の問題点を指摘したうえで、外国人就労者に対する日本人の偏見を正しい情報発信によって解消し、意識改革をしないといけないと指摘し、杉田弁護士も外国人は支援を求めているだけではなく、日本人と同じなんだと認識したうえで、次にフラットな関係に思いやりをもって進むことが求められていると述べられました。
そして古谷様は、外国人からの相談は複合的なので、弁護士会が相談を受けるにあたって「相続問題」「外国人問題」などとカテゴライズしすぎないようにすることが重要であり、外国人救済のワンストップセンターが必要であると説かれ、あわせて外国人問題を扱う弁護士に補助金が出ている国もあることが紹介されました。
チパ様は、これまで弁護士は遠い存在だと思っており、多くの外国人も「問題が起きてから弁護士を探す」といった状況にあると思われるところ、今後、このような現状を改善するために、弁護士と外国人就労者が気軽に触れ合うことのできる交流イベントを開催してほしいとの要望を最後に述べられました。
杉田先生1
関先生1
チパ様1
福崎先生2
この日登壇された方々は、それぞれの立場から外国人就労者の人権問題につき解説してくださったので、聴講した我々は、弁護士に求められる役割を知り、弁護士一人一人が今できることを学ぶことができました。それだけにとどまらず、弁護士会として取り組むべき課題までが浮き彫りとなり、具体的な行動の道筋までがはっきりと見えてきた実り多いシンポジウムとなりました。 
パネルディスカッション